指針(国空乗第2077号 H15.03.28)

社団法人 日本航空機操縦士協会
会長 川原 武 殿

国土交通省航空局技術部
乗員課長 北 幸雄

自家用操縦士の飛行の安全確保について

 最近の航空事故件数の約8割は、小型機事故が占めており、その約半数が自家用操縦士によるものである。自家用操縦士による事故の原因については、自家用操縦士自身の安全意識の欠如、操縦操作の未熟等によるものが大半を占めている。
 こうした状況を踏まえ、航空局では、これまで自家用操縦士を含め運航者に対し、小型航空機の運航に係る安全対策について関係団体を通じ、周知徹底を図るとともに、その内容を、国土交通省ホームページに掲載してきたところである。
 また、航空局では、小型機事故の実態を踏まえ、操縦士や学識経験者等とともに自家用操縦士の技量維持のあり方について検討を行ってきたが、その結果、自家用操縦士に対し、安全講習会の受講や最近の飛行経験の充足により、安全知識の習得、安全意識の向上や技量維持を図るべきとの結論が得られたところである。
 これを踏まえ、航空局としては、自家用操縦士が自ら安全知識の習得、安全意識の向上や技量維持に努める必要があるとの認識に立ち、今般、別添のとおり「自家用操縦士の技量維持方策に係る指針」を定めたので、貴協会等におかれては、当該指針について、傘下会員等に周知すること等により、自家用操縦士に係る事故防止にご尽力願いたい。


別添

平成15年3月制定
国土交通省航空局

自家用操縦士の技量維持方策に係る指針

 標記について基本的な考え方は以下のとおりであり、自家用操縦士は本指針を参考に、自ら積極的に技量維持に努めることが望ましい。

1.安全講習会
  (1) 航空機を操縦する日から遡って2年以内に安全講習会を受講し、安全知識の習得、安全意識の向上に努める。
  (2) 外国の資格証書からの切替えにより我が国の自家用操縦士技能証明を取得した場合は、当該技能証明を取得後速やかに、安全講習会を受講し、安全知識の習得、安全意識の向上に努める。
  (3) 安全講習会の受講者は、受講履歴を明確にするため、ログブックに講習会の実施日時、場所、主催者等を記載することが望ましい。
  (4) 安全講習会のモデルケースを別紙1に示すので、関係者はこれを参考にされたい。
2.最近の飛行経験
  (1) 航空機を操縦する日から遡って180日以内に当該航空機と同じ種類及び等級の航空機による3回以上の離着陸経験がない場合は、実技訓練(航空局が認定した模擬飛行装置又は飛行訓練装置により行う場合を含む。)を行うことにより自ら技量の維持に努める。
  (2) 滑空機を曳航する日から遡って180日以内に3回以上の滑空機の曳航経験がない場合は、滑空機の曳航に係る実技訓練を行うことにより自ら技量の維持に努める。
  (3) 実技訓練を行った場合、訓練履歴を明確にするため、ログブックにその旨を記載する。
  (4) 実技訓練を実施する教官は、的確なアドバイスを行うとともに、必要に応じ適切なテイクオーバーを実施できる能力を有する者であることが望ましい。
  (5) 実技訓練のモデルケースを別紙2〜5に示すので、関係者はこれを参考にされたい。
(備考)技量維持を効果的に行う観点から、安全講習会と実技訓練を併せて実施することが望ましい。
別紙1:安全講習会のモデルケース
別紙2:サンプルプロファイル(飛行機)
別紙3:サンプルプロファイル(回転翼航空機)
別紙4:サンプルプロファイル(動力滑空機)
別紙5:サンプルプロファイル(上級滑空機)
(別紙1)

安全講習会のモデルケース

 安全講習会は、受講者に安全意識の啓発を促し、もって航空安全に十分寄与できるような内容であることが重要であり、具体的には以下の項目を含んでいることが望ましい。

(1)航空法令等の遵守
最新の航空法令、関係規則等を入手し、それを遵守することの重要性について認識できること
(2)事故、重大インシデント、異常接近の事例等、具体的な実例の紹介
事故等の特徴、取り組むべき対策を認識できること
(3)情報収集の重要性について
飛行の準備段階から目的地に到着するまでの、各飛行過程で必要とする情報を認識できること
AEIS(航空路情報提供業務)やATIS(飛行場情報提供業務)等の有効利用を含め、必要な情報の入手方法と入手すべき時期を認識できること
携行する資料については、単に携行するだけでなく、その資料がどういうものであるのか理解できること
測風、燃料消費率等、自分が作成する情報が正確に理解できること
航空機の整備状況について理解できること
野外飛行において、飛行経路の空域情報、経路に近い飛行場及び滑空場の情報収集、安全に着陸できる場所の設定ができること
(4)自分の能力に見合った無理のない飛行計画と飛行内容の認識
飛行計画作成時に情報を総合的に、かつ、慎重に検討することの重要性が認識できること
状況に応じて出発の中止、地上待機、地上及び空中での飛行計画の変更(経路変更、引き返し、目的地変更、待機)を行うことの重要性が認識できること
回転翼航空機においては予防着陸の重要性及びその実施要領を理解することの重要性が認識できること
ロストポジション、空間識失調等不測の事態に陥った場合、どのような対処をすべきなのか認識できること
気象情報、飛行経路の特性、航空機の性能、日没時間、健康状態、ATC(航空交通管制)/AEISとPIREP(飛行中のパイロットからのレポート)、大型機の後方通過による乱気流、遭遇した気象状態と気象予報との差、異音/異臭/振動などの状況について認識できること
夜間飛行、編隊飛行、曲技飛行、高高度飛行、特別有視界飛行(VMC未満の気象条件でも管制官の指示により飛行する目視飛行)、自動操縦装置の使用、野外飛行において安全に着陸できる場所の設定、着陸要領の理解、同一上昇風帯での集団飛行について十分な知識と経験の裏づけにより飛行を行うことの重要性が認識できること
(5)自分一人の空ではないことの認識
見張り、ポジションレポート、PIREPの送受信、ATC モニター、訓練・試験空域付近の通過方法、同一上昇風帯における他機との安全間隔の確保について、同じ空域を使用するパイロット同士の共通認識の重要性が認識できること
簡潔明瞭なATC、優先順位、ATCの割り込み及び航空機の運航状況やIntentionの通報について、パイロットと管制官との間における共通認識の重要性が認識できること
騒音への配慮と飛行制限空域について認識できること
(6)安全面に影響する人間の心理や行動の特徴の認識
人間は誤りを犯すもの、能力には限界があること等に関連して、操縦には心理的な側面が影響していることを認識できること
(7)夜間飛行能力
夜間飛行における錯覚や空間識失調等の不安全要素が認識できること
(別紙2)

サンプルプロファイル(飛行機)
目標:操縦士として離陸から着陸まで安全に飛行できること。
飛行内容 安全に飛行できる基準
○離着陸操作
 □通常の離陸及び着陸
 □ノーフラップ着陸
 □着陸復行
○基本操作
 □場周経路からの離脱
 □訓練空域の維持(地形確認)
 □飛行場への帰投
 □場周経路への進入
 □管制機関等との連絡
○空中操作
 □低速飛行
 □急旋回
 □失速からの回復操作
  (1)着陸形態における失速
  (2)離陸上昇中における失速
○基本計器飛行
 □基本操作
 □ADF又はVORによる飛行
○緊急操作
 □発動機故障時の処置
 □機位不明時の処置
 □機器等の故障時の処置
○滑空機の曳航(注)
  1. 機長として出発前の準備及び確認が適切に実施できる。
  2. 訓練空域を維持して飛行できる。
  3. 管制機関等と適切な交信ができ、指示やアドバイスに従って安全に飛行できる。
  4. 空中操作を安全に実施できる。
  5. 基本計器飛行を安全に実施できる。
  6. 他機、障害物に対する見張りができる。
  7. 飛行中、状況の変化を認識して、安全に飛行できる。
  8. VMCを維持して飛行できる。
  9. 安全な離着陸ができる。
  10. 緊急事態に適切に対処できる。
  11. 滑空機の曳航諸元を理解し、安定した曳航と周囲に対する配慮ができる。(注)
備考
注 滑空機の曳航は、該当する場合に実施する。
(別紙3)

サンプルプロファイル(回転翼航空機)
目標:操縦士として離陸から着陸まで安全に飛行できること。
飛行内容 安全に飛行できる基準
○離着陸操作
 □通常の離陸及び着陸
○基本操作
 □場周経路からの離脱
 □訓練空域の維持(地形確認)
 □飛行場への帰投
 □場周経路への進入
 □管制機関等との連絡
○空中操作
 □旋回操作
○基本計器飛行
 □基本操作
 □ADF又はVORによる飛行
○緊急操作
 □不時着操作(天候不良、発動機故障)
 □オートローテーション進入
 □油圧故障時の処置
 □テールローターコントロール故障時の
  処置
 □機位不明時の処置
 □機器等の故障時の処置
  1. 機長として出発前の準備及び確認が適切に実施できる。
  2. 訓練空域を維持して飛行できる。
  3. 管制機関等と適切な交信ができ、指示やアドバイスに従って安全に飛行できる。
  4. 空中操作を安全に実施できる。
  5. 基本計器飛行を安全に実施できる。
  6. 他機、障害物に対する見張りができる。
  7. 飛行中、状況の変化を認識して、安全に飛行できる。
  8. VMCを維持して飛行できる。
  9. 安全な離着陸ができる。
  10. 緊急事態に適切に対処できる。
備考
 
(別紙4)

サンプルプロファイル(動力滑空機)
目標:操縦士として離陸から着陸まで安全に飛行できること。
飛行内容 安全に飛行できる基準
○離着陸操作
 □通常の離陸及び着陸
 □着陸複行(実施可能な滑空機)
 □動力不作動の着陸(滑空)
○基本操作
 □場周経路からの離脱
 □訓練空域の維持(地形確認)
 □飛行場(滑空場)への帰投
 □場周経路への進入
 □管制機関等との連絡
○空中操作
 □低速飛行
 □急旋回
 □失速からの回復操作
  (1)着陸形態における失速
  (2)離陸上昇中における失速
 □動力の空中停止及び再始動
○緊急操作
 □機器等の故障時の処置
 □動力故障と場外着陸要領
○滑空機の曳航(注)
  1. 機長として出発前の準備及び確認が適切に実施できる。
  2. 訓練空域を維持して飛行できる。
  3. 管制機関等と適切な交信ができ、指示やアドバイスに従って安全に飛行できる。
  4. 空中操作を安全に実施できる。
  5. 他機、障害物に対する見張りができる。
  6. 動力の空中停止、再始動、滑空を安全にできる。
  7. 飛行中、状況の変化を認識して、安全に飛行できる。
  8. VMCを維持して飛行できる。
  9. 安全な離着陸ができる。
  10. 緊急事態に適切に対処できる。
  11. 滑空機の曳航諸元を理解し、安定した曳航と周囲に対する配慮ができる。(注)
備考
注 滑空機の曳航は、該当する場合に実施する。
(別紙5)

サンプルプロファイル(上級滑空機)
目標:操縦士として離陸から着陸まで安全に飛行できること。
飛行内容 安全に飛行できる基準
○離着陸操作
 □ウインチ曳航又は航空機曳航による
  離陸上昇、追従及び離脱
 □通常の進入及び着陸
○基本操作
 □訓練空域の維持(地形確認)
 □場周経路への進入
 □管制機関等との連絡
○空中操作
 □低速飛行
 □急旋回
 □失速からの回復操作
  (1)着陸形態における失速
○緊急操作
 □曳航索切れ、ウインチ又は曳航機の
  故障時の処置
 □曳航索から離脱できない場合の処置
 □場外着陸要領
  1. 機長として出発前の準備及び確認が適切に実施できる。
  2. 訓練空域を維持して飛行できる。
  3. 管制機関等と適切な交信ができ、アドバイスや指示に従って安全に飛行できる。
  4. 空中操作を安全に実施できる。
  5. 他機、障害物に対する見張りができる。
  6. 飛行中、状況の変化を認識して、安全に飛行できる。
  7. VMCを維持して飛行できる。
  8. 安全な離着陸ができる。
  9. 緊急事態に適切な対応ができる。
備考